紅緒と悠斗
第127話の冒頭は精神世界で膝を抱える紅緒と、それをなだめる悠斗から始まります。
「ねぇ、呼ばれてるけど‥?いつまでそうやってるつもり?」
「私は‥もう‥戻れ‥ません」
そう言う紅緒を「はぁ?」と責めるような目で見つめる悠斗。
紅緒は自らの未熟さで無悪の術中に墜ち、暴走し、ろくろや繭良を傷つけたこと、何よりも師である“すばる”の命を奪ったことを責めているのでした。
「私‥にはもう、ろくろと共に戦う資格は‥ありま‥せん」
「‥うっざぁ。この期に及んでよくそんな選択が出来るねぇ?今まで頑張ったって言って欲しいのかい?お前は十分戦ったよって慰められたいのかい?紅緒?分かってる?」
「‥」
「今ここには僕と紅緒しかいないんだよ、今すぐ泣き言をやめて外に戻るのと、ここでずっと僕にネチネチネチネチ嫌味言われ続けるの、どっちがいいんだい?」
そうゲス顔全開で言い放つ悠斗に、紅緒は顔を真っ青にするのでした。
舞台は変り千怒のいる安全地帯へ
謎に”穢れの王”の浸食を受けていないこの場所(千怒の結界説)にいるのは神威、珠洲、千怒と紅緒の4人。
目が覚めた紅緒自ら“悠斗”と名乗った事に驚く千怒。
「紅緒の‥兄じゃと‥!?」
「ウチの愚昧がご迷惑をかけてすみませ~ん!あとでキツ~く叱っておきますので!」
紅緒の肉体を得た悠斗は右目を瞑りながら笑うのでした。
ろくろVS戦艦”あやかし”
婆娑羅×8の力を持つと言われる戦艦型ケガレ”あやかし”。
一度は勝神コーデリア達に撃破されたのですが、穢れの王によって復活。穢れの王の支配下の元、ろくろに攻撃を仕掛けます。
大量の呪力砲と、一本の黒い波動がろくろを襲います。
黒い波動はコーデリア達”天元空我”を瞬殺したあの砲撃だと思われます。
その攻撃を呪印により相殺するろくろ。
「むぎぎっ‥やりたい放題‥だな!!」太陽であるろくろが押されるほどの強大な呪力砲。
しかしろくろの後ろには水度坂勘九郎や雲林院憲剛などの陰陽師達が控えているため、避けることも叶わず呪力の押し合いが続きます。
そんな中穢れの王の声が禍野に響き渡ります。
「はていぶかしや、神に近きやむごとなき存在たる其方が、何故塵屑のために命を捨るか」
「馬鹿言ってんじゃないよ‥神様にあんったおぼえなんてないね。逆に神様なら‥!!命を救う以上にやんなきゃいけないことなんてないでしょうよ!?」
そう言い、戦艦の外では重濁たる呪力合戦が繰広げられるのでした。
天馬
「急いで脱出だぁ~~~~
俺たちが中に残ってんじゃ、ろくろが満足に戦えねぇ~~~~」
外での戦闘を感知した清弦が士門達に呼びかけます。
清弦の目線の先には、大の字に横たわる天馬とその傍らに寄り添う士門、繭良の3人でした。
天馬の身体や髪にはひび割れが生じ、体色はどこか色素が抜けたような薄色へと変貌、唯一唇だけが紅いような状態でした。陰と陽の境界を取っ払った姿になったためでしょうか‥失ったはずの左腕は再生しているように見えます。
天馬の傍に座り込んでいた士門は「聞いたか天馬‥!脱出するぞ」と呼びかけます。
「‥ってろ、俺‥」
「‥?」
「俺は‥やるべき仕事は全部やった‥」
か細い声で呟く天馬。
「‥何を」
「エキストラは全然足りいねぇが、変態メガネ親父(有馬)が昔見せた俺の死に際と大体同じだな‥」
「今は‥気分が良い」
その台詞を聞いて、士門と繭良は言葉を失います。どこか、死期を悟ったような表情に見えました。
「馬鹿なことを‥言うなっ、俺とお前の勝負はまだ終わっていないっ‥!」
「‥はぁ?寝惚けたこといってんじゃねぇぞ‥どう考えても俺の勝ちだろうがそんなもん‥」
「そう‥そうだ!!だから‥だからお前は逃げることは出来ないっ‥お前は生きて‥俺の挑戦を受ける義務があるっ‥天馬っ!!」
「‥」
そう言う士門から目を逸らした天馬は、清弦や有盛の奥に見えた人影に目を見開きます。
それは泉里でした。憎悪剥き出しの表情の泉里。しかし天馬は何も表情を変えません。
「何よその目‥?私はあんたが地獄に来ることをのぞんでるの!力なんて貸さないわよ‥!?ここで見ててやるから、最期までちゃんと自分の力でやりなさいよ‥!」
この「ここで見ててやるから」っていう台詞が、「一緒にいてくれてありがとう」へのアンサーな気がしました。
特異点の時の天馬にはろくろしかいなかったのに、今は天馬、繭良、清弦に有盛。決して多くはないですが見届けてくれる人が増えたことにどこか感動しました。
泉里の台詞の直後、戦艦の天井が崩れ、瓦礫が天馬たち5人の元へ迫ります。
「─ちっ!世話のかかるエキストラ共だな!」
5人は眩い球状の結界に護られていました。その術者は天馬です。再び“陰と陽の境界を取り外した”姿になり、4人を護ったのです。
泉里の「最期まで自分の力でやりなさいよ」が効いたのでしょうか。
瀕死の状態から一瞬で立ち直れるのは気になるところですが、天馬もうあの姿を使い熟しているようです。
「天馬!?その力を乱用するな!」
「うるせぇよ、テメェは黙ってろ。俺がすることは全部俺が決める。生きるか死ぬかもな!テメェが俺に指図すんじゃねぇ?」
「‥!」
「さっさと出るぜ、振り落とされたくなきゃじっとしてな!」そう言うと天馬は崩壊する戦艦内部を突き進んで行きます。
陰の気で出来たケガレの組織を分解しながら、ひたすら真っ直ぐに、外を目指します。
天馬の発動した結界にはろくろの太陽の力と同じような抗力が付与されているのでしょう。
「因果な商売だよなぁ、トリ丸ぅ?上を見たってキリがねぇくせに、やっと近づいたと思っても更に上がいるんだと気付かされるだけ」
「いい加減テメェも嫌気がさしてきたんだろう?んん?」
「‥世迷言を言うな、必ず追いつく。俺の信念が挫けることは死んでも無い‥!」
真剣な眼差しを向ける士門に、天馬は嬉しそうに笑うのでした。
「馬鹿は死んでも治らねぇか」
「!?」
天馬が険しい表情をした次の瞬間、結界が割れ、士門達は凄い高さを落下します。
しかしすんでの所で天若家の傘下達に救助されます。艦内に潜入できた傘下筆頭の実力者たちです。
近くには五百蔵志鶴たちもいます。そのよこには、恐らく雲雀の遺体を収納した袋の描写も。
士門達の現在地のすぐ横には大穴があり、その穴を抜けた先は外。
天馬の結界は、戦艦を脱出することさえできませんでしたが、そのすぐ傍までちゃんと送り届けたのです。
「─?」
「待ってください、天馬が‥天馬がいないっ‥落下している間にはぐれてしまったのかも知れませんっ!」
しかし夕弦が言うには感知できた呪力には天馬のものは無かったと‥
「何を‥馬鹿な‥」
士門の表情に、今までに見たことのないような陰りが見えました。
そこで繭良が口を開きます。
「士門‥」
「繭‥」
「士門には‥視えてたんだね‥私達には視えなかった。丸い結界が私達を運んでくれたときから、天馬さんは‥もう‥いなかったよ」
「な‥そんな‥そんなはずが‥」
結界の描写の違和感の答えがでました。
どうやら、天馬はあの場で最後の力を振り絞り、士門達を外へ連れ出したのです。
天馬の傷が完治していたのも、おそらくは精神のみの姿だったからでしょう。
士門の表情は完全に絶望に染まります。しかしそんな中、ケガレ戦艦の内部に凄い揺れが生じます。恐らく外で戦っているろくろの攻撃の余波によるものでしょう。
「急ぎましょう!長くいたら、共倒れだ!!」
「‥駄目だ、そんなこと‥」
「士門‥!!」
そう清弦が声をかけますが、尊敬する清弦の声さえも今の士門の耳には届きません。
んん!?
そんなとき、戦艦の奥から人影が現れます。
「天馬‥!」
汚れひとつ無い狩衣に相変わらずのアホ毛、モノクルにオッドアイ。生前の、覚醒を遂げる前の天馬です。
有盛や繭良、清弦もその姿を観測できたようで、有盛も「天馬さん‥」と声を漏らします。
「何をしている‥早く‥早くそこから降りてくるんだ‥」
士門の穏やかな口調に、天馬は微笑みます。
「テメェと意地張り合うのも、もう飽きた。俺がいなくなってもあとはどうとでもなるだろう?」
「馬鹿を言うなっ‥お前はっ‥俺の挑戦からは逃げられないと言ったばかりだろうっ!?」
「テメェの都合に付き合う気はねぇな。俺は俺の決めたことにしか従う気はねぇ」
「‥お前はどうして‥いつもそんなに勝手なんだ‥」
「‥トリ丸‥俺はな、満足したのさ‥」
「ヘドロに塗れた人生が嫌で嫌で、何度も投げようとしてきた、何度も死んで逃れようとしてきた。
─でもやっとだ‥最後の最後でやっと‥自分で決めて‥自分で答えを見つけた‥これが俺の選択だ‥俺だけのもんだ。他の誰にも邪魔は出来ねぇのさ。」
「清々しい気分だ、逃げるわけじゃねぇ‥死んで許されたいわけでもねぇ。ずっと自分を縛ってきたものから解放されたから‥安心して行けるんだ」
「最後の最後で‥勝ち逃げと言うことか‥!」
すると天馬は薄らと笑みを零します。
「花持たせてやろうってんだ、感謝しろよ!」
「どうせ来世でも最強はこの俺だ!悔しかったら今世で人間最強になって見ろよ!!」
んん!?
そう聞こえたときには、もうそこには天馬はいませんでした。
士門の目には戸惑い、目標が消えた絶望感、そして新たな覚悟を刻んだ、そのどれとでもとれるような表情を浮かべていました。士門の目にどう移ったのでしょうか。
今話、天馬のセルフオマージュが凄すぎです。
死に際の描写。
「花持たせてやる」特異点でろくろに放った台詞を今度は士門に言うのもカッコいいですし、
「最強はこの俺だ」これは以前、御前試合で士門と対峙した際の台詞です。
「馬鹿は死んでも治らねぇか」は、以前清弦がろくろを評した台詞であり、これを天馬が士門に送るのは『ろくろ=士門』の意味合いが込められてそうです。
ろくろと天馬
舞台は変わり、戦艦あやかしの攻撃を受け止めるろくろへ
「このっ‥」
巨大な呪力砲撃の前に、ろくろは苦戦を強いられているようです。
『なんだ、調子悪いのかチビ助』
そんなとき、天馬の声が聞こえます。
「─!?」
「‥て、天馬‥?
天馬‥あ‥あんた‥」
天馬の魂がろくろの前に現れたのです。
『あ~~やめろやめろ。辛気臭ぇのは大嫌いだ
‥チビ助‥覚えてるか?5年前俺に切った約束』
「?」
『サル山大将と戦った時に言った台詞だ。』
それは瀕死の天馬にかつてろくろが告げた『全部真っ白に塗り替えてやる』という単価です。
『‥テメェはよぉ、チビ助のくせに言ったことちゃんと守りやがって‥‥』
『テメェの言うように真っ白になったなぁ‥俺は‥塗り替えることしか頭になかったが‥テメェはこれから‥どんな絵を描くんだあ?』
そう問う天馬に、悲しそうな表情でろくろは告げます。
「‥‥何を描くかは‥見ていかないの‥?」
『もう十分堪能した‥これ以上は贅沢が過ぎる
未来ってのが光ってるっぽいってだけで‥俺は腹いっぱいだ。俺のことはどうでもいい。片割れが目を覚ましたぜ。想定外の捻りが効いてるがw』
『俺が言いてぇのはいっこだけだ、暴れろ』
そう告げると、天馬は姿を消したのでした。
共振
天馬が消えた次の瞬間。
ろくろの背後に迫ったあやかしは、重濁な呪力砲を放ちます。
しかしそれは白と黒の呪印により受け止められ、弾き返されることとなります。
そう、それは共振。
片目を瞑った紅緒が、ろくろと手を繋いでいたのです。
「紅っ‥?お‥お前、悠斗か‥!?」
「はぁぁぁぁ~~~!?つまんな~~~いっ!!なんでそんなにすぐ分かるかなぁ~~~!?」
「マ‥マジで悠斗なのか!?何で!!」
「紅緒のピンチヒッターだよ。紅緒の魂が呼び戻されたときに、僕まで引っ張られたんだ。来たくもないのに。そのくせ紅緒はもう戦いたくないって引きこもっちゃって。だからさぁ~~♡
ろくの手足が引き千切られるとこ見せてやれば、嫌でも出てこざるを得ないと思ってねぇ~~~♡」
「‥!!一緒に戦ってくれるのかっ‥!?」
「‥‥スルーすんな‥」
そう言うと悠斗はため息をつき、心底嫌そうに告げます。
「紅緒はこの中にいる、でも僕はもう、アイツのお守りはゴメンだ。愚昧を起こすのは旦那の君がやりなよ。あのデカブツと戦いながら紅緒の覚醒を促す。簡単でしょ?」
「あぁ‥楽勝だ!紅緒も禍野も世界もみんな、全部まとめて救ってやるっっ!!!!」
こうしてろくろと悠斗、待ち焦がれたコンビが立ち上がったのでした。
まとめ
天馬の最期、凄く天馬らしい終わり方で悲しいよりもお疲れ様って感じでした。
無悪戦は天馬に焦点が当てられてたイメージです、今話、そのバトンが士門とろくろに託された感じがしました。
紅緒復活までのカウントダウン。
目標である天馬を失った士門、今後どう描かれていくのか、また繭良との関係に進展はあるのかなど、色々気になります。
最後まで読んでくださった方、記事を見てくださった方に感謝を<(_ _)>
また次話でお会いしましょう。
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