遅くなりましたごめんなさい
無悪と千怒
今話は無悪の回想から始まります。
ケガレとして生み墜ちたとき、無悪は何の役割も与えられないただのケガレでした。
加布羅のようにケガレ墜ちではなく、自凝や聖丸のようなただのケガレ。
持った感情は”怒り”と”憎しみ”。
負の念に任せて殺し続ける、そうして力を付けてきた無悪の元には数多くのケガレが集まりました。
無悪は集った仲間の命が尽きようが、平然と見捨て冷酷に生き続けたのです。
この辺りは今の無悪と大して変わりません。
しかしここで無悪に転機が訪れます。
─自分を取り巻く連中は幾たびも変化したが、当然のように弱いモノから死んでいく
自分の強さに並ぶモノはいないと考えていた時期にヤツに会った
千怒との会合です。この頃は両者、婆娑羅ではなく通常のケガレ。
千怒と衝突した無悪は、敗北。
「何故‥殺さぬ‥!?」
「肩肘を張るな小僧、弱いお主に選ぶ資格などないわ、お主は儂を楽しませるためだけに、生きるのじゃ!!」
こうして生かされた無悪は何度も千怒に挑みます。
そして2人は婆娑羅へと覚醒。
「千怒と名乗るケガレ、どんなに滅多打ちにされても追い続けた。理由は分からなかった」
そうして月日は経ち‥
「またお主か、お主と戦うのはもう飽きたぞ」
「楽しませろと言ったのは貴様であろうが」
「は?言っておらぬわ、そんなこと!」
「巫山戯るな、間違いなく言うた」
「い‥言うたか~~!?仮にそうでもそんな昔のこと覚えておらぬわ!」
「73年前に確か言うた」
「だから覚えておらんて!」
此処のシーン、仏頂面の無悪と表情に喜怒哀楽がある千怒の対比が面白いです。
そして千怒は「命の削り合いに興味は無い」と言い放ち、戦わない選択肢として「生きる理由を探す」ことを告げます。
「あの辺りが手頃かの?」
「何をする気じゃ?」
「ここに村を造ろう!」
そう言うと、千怒は1人、禍野の地を開拓し始めたのです。
禍野は昼は灼熱、夜は極寒、どう考えても地獄の世界に村を築こうとする千怒。
呆れて見物を決め込む無悪。
しかし千怒の活き活きした表情に気が変わり、開拓の手伝いを始めたのでした。
火起こしに編み物、土器に田植え。
2人で人間の真似事を繰り返す日々。
「無悪、来やれ」
「こんな人間の真似事までして、ケガレとしての矜持はないのか」
「生命の営みこそ、生き物としての矜持であろうが!」
「ケガレに生命の想像が出来ると本気で思うておるのか‥‥」
「其れを今から証明しようというのじゃ、儂とお主で」
こうして、千怒と無悪の間に命が生まれるのでした。
─あれほど壊し殺し奪ってきた自分が、無から有を想像するときがこようとは夢にも思わず
月日は流れ、折れと千怒の間に生まれた子らが成長し子を為し、その子供らがまた家族となり、村は”夙谷”と名付けられ少しずつ大きくなっていった─
だが、自分の中の空白が埋められることは一向に無かった
どれ程身内が増えようとも、どれ程長い期間共に過ごす者がいようとも
己がケガレという欠陥品である事に変わりは無いのだ
千怒の告白と無悪の暴挙
そして200年の月日が流れ
在る夜「大事な話があるので聞いて欲しい」と千怒がいつもとは違う神妙な面持ちで語り出した。
そこで告げられたのは、
- 千怒は”太陰”という特別な力を持たされ生を授かった存在
- 間もなく“太陽”に覚醒した者がやってくる
- 太陽と契りを結び、穢れの王を滅ぼす“太極”を生む使命
- 太極に自信の力の全てを授けた後、千怒は潰える
- 穢れの王の消滅と共に、禍野と夙谷は消滅する
辛く苦しそうに重々しい口調で放す千怒。
しかし、千怒の口から真実が語られるにつれ、無悪の中には憎悪と怒りが募っていったのです。
夙谷の消滅、身内の死に憤ったのか。千怒が他の男と契りを交わすことへ憤りを覚えたのか
「済まぬ無悪‥しゃが聞いておくれ。儂は本当にお前と‥」
次のシーンでは、千怒の生首を晒す無悪の姿が‥
千怒の言葉はもう、無悪の耳には届いていなかったのです。
憤った無悪は千怒を手にかけたのでした。
「間もなくこの夙谷を滅ぼすために陰陽師がやって来る!手引きしたのは千怒だ!!この女は我々を裏切った!!武器を取れ!殺さねば、殺されるぞっ!!」
そして迎えた、800年前の戦い、初代太陽VS夙谷。
初代太陽の陰陽師の首をはねとどめを刺した無悪。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ‥術者を集めろ。太陽の御霊を依り代に縛りこの地に封じ込めるのだ‥!」
「あんたはどこに行くんだ‥‥?」
「穢れの王を殺すっ‥!」
太陰、太陽。その双方を殺めた無悪。
太陽討伐直後、28巻で描かれた、太陽の陰陽師撃破の描写の片腕の男は無悪だったのです。
彼は血走った目で深淵の地へ赴き、穢れの王に出会うのでした。
『いと奇異!これ程まで私に近づいたのは其方が初めてじゃ』
そして無悪の視界は白く染まるのでした。
場面は変わり、禍野の海を漂う白髪の頭蓋。
それは千怒の生首でした。土御門島から本土へ流れ着いたのです。
その首を食した小さなケガレがいました。丁度、10歳児くらいの背格好のケガレ。
そのケガレは次第に苦しみだし‥そして千怒は復活を遂げたのでした。
愛
場面は変わり、心象世界で千怒と対話する無悪。
千怒が、消えゆく無悪の魂に干渉したのでしょう
座り込む無悪と佇む千怒。
「憐れ─以外の言葉が思い浮かばぬな」
「黙れ」
「お主ではないわ、人間たちの事よ。お主はただの自業自得じゃ。お主が儂を殺した(と思っていた)後、初代太陽を返り討ちにしていなければ800年も前に穢れの王は祓われておったのにのぉ」
千怒曰く、無悪1人のせいで、人類は1000年たった今も終わらぬ戦いを強いられている。とのこと。
「たった一人‥たった一人でケガレのために、陰陽師と戦い続けた」
千怒は悲しそうな表情で無悪を見下ろします。
「ケガレのため‥‥?抜かすな」
そう言う無悪に「ほっほっほっ!お主こそ戯れ言を抜かす出ない!」と笑うと千怒は
「自分のためならば戦って何を得たかったのじゃ?」と問うのでした。
禍野の支配者にでも成りたかったのか?
それとも賞賛を得て愉悦に浸りたかったのか?
そうではない、無悪はただ、夙谷が、禍野がなくなることを阻止したかった。
だから穢れの王を祓い、その力を得た外道・泰山府君を手中に収めることでケガレだけの世界を現に作ろうとした。
「やはり貴様は憐れではなくただの阿呆よの、何のために戦っていたのかも理解ってすらおらぬようじゃ」
そう言い笑う千怒。
「無悪‥やっと‥やっとお主と話が出来たのぉ」
ケガレとして生きる意味を見いだせた千怒と、見いだせなかった無悪。
人間とケガレの共存、その可能性にたどり着いた千怒と、たどり着けなかった無悪。
「儂自身‥どうして800年前、もっと早くにお前と“話し合って考える”ということができんったのかのぉ」
「そんなもので、あの時目の前に差し迫っていた問題が解決していたと思うのか?前もって話しをしていたところで結果は変わらんかったと思うがな」
「違う‥違うよ無悪。答えは求めておらぬよ。儂は“お前と話し合える”だけで良かったのじゃ。話し合うとは共に生きること、共に生きる道を共に悩み共に探す‥お前とな‥無悪」
曰く、古き力は新しい力と合わさり混じり合って初めて次の世代へ受け継がれて往く
「後の世の者達が儂らの過ちを鑑みて、最適な道を歩むか手にしてくれればそれでいい。分け合うか、距離を取るか‥考えを見つめ直したって良いのじゃ。最善を模索する”可能性がある”と言うだけでも良いのじゃよ」
「そんなことで‥その程度のことで良かったのか‥?」
「その程度の事も分からんから、儂らは傷つけ合うしかなかったんじゃよ。良かったのぉ無悪」
「?」
「朴念仁のお主では2千年かかってもたどり着かぬような無理難題の答えよ。それをまあ。千年程度で、死ぬ前に気づけて良かったのぉ!」
千怒の笑顔、それをみた無悪は息を呑みます。
「千怒‥儂は今‥どんな顔をしておる?」
「‥‥」
問に言葉を詰まらせる千怒。
初めて見た無悪の表情を前に、最期の刻を確信する千怒。
「今までに見たことのない、どうしようもないほど情けない顔をしておるわ」
そうして無悪は消えるのでした。
「先に逝っておれ、儂も‥すぐに後を追う‥」
考察
夙谷と無悪の異常な強さ
夙谷は千怒と無悪、2人の夫婦?から始まった村。
千怒は太陰の力を与えられた特別なケガレ、一方無悪は普通のケガレ。
しかし無悪は穢れの王ほどとは言わずとも、別格の力を持つ存在となっています。
単純に1000年という歳月だけが無悪をそれほどまで凶悪に成長させたのかというと‥恐らくそうではありません。
同じ歳月を生きたケガレとして『自凝』という婆娑羅がいました。
しかし自凝と無悪の間には明確な実力差がありました。自凝は力を付けても付けても身は衰え婆娑羅として成長が頭打ちになっていたのに対し、無悪の力は際限なく伸び続けたのです。
当然、ケガレとして覚醒を遂げていた無悪(32巻で確定)と遂げれなかった自凝に力差があるのは明白です。
しかしそれ以上の理由に無悪が、太陽、太陰の陰陽師の呪力を得たことが大きかったのではないかと考えられます。
太陽、太陰両方の呪力を注ぎ込まれ誕生する太極・巫女。それとは原理は違いますが、両方の呪力を得た無悪が陰陽消滅という高次元に触れても崩壊しない理由としては納得です。
千怒が初代太陰
千怒が初代太陰の陰陽師である事が発覚し、安倍晴明、蘆屋道満の2人が描いた穢れの王撃破の大まかなストーリーが見えてきました。
初代太陽と千怒の2人が契りを交わすことで生まれる太極に穢れの王を祓わせる算段だったのでしょう。
まぁ、無悪1人のせいで全部水の泡になったんですけども。
首と無悪復活の真相
特異点で首だけとなった無悪。しかし彼は4年後に復活を果たします。
その手法は恐らく千怒と同様でしょう。ケガレに食べさせ乗っ取ったのです。
てっきり加布羅と同じ要領かと思ったのですが、違ったようです。
しかし無悪は術式を没収されることなく力を引き継げたのに対し、千怒は術式を蘆屋道満に没収された後、雑魚ケガレと同程度の呪力と大幅な弱体化を受けました。
婆娑羅の呪力は術式に貯蔵されるので、無悪は単に蘆屋道満に術式を没収されなかっただけなのでしょうか?それとも穢れの王が目を付けていたため、蘆屋道満が没収できなかったからなのでしょうか?
難しいですね。
無悪・天馬の死
無悪の消滅を見届けた有盛は、膝をつきます。
「終わった‥本当に‥」
そんな有盛に声が届きます
(ありす君)
振り返れば其処には、鈩と亡き両親の3人が。
(よく頑張りましたね)
その声を聞き
「─いえ、まだです。まだ全ての戦いが終わったワケではありませんっ!」
そう言い、再び立ち上がるのでした。
「天馬っ!!」
そんな中、士門の悲痛な叫びが響きます。
士門たちの元へ駆けあがる有盛。
屍の山を越えた先には‥
「どうなっている‥これは‥‥!!」
「──‥!!」
力なく横たわる天馬の姿が。
その全身が石化し、あちらこちら至る所に亀裂が走っているのです。
「え‥!?な‥んで‥!?」
口を開いたのは清弦でした。
「境界を‥取り払った影響だ。無悪を祓う直電になった姿‥陰の気と陽の気の境目を壊す行為。あれは‥双星や陰陽消滅と同じ人間としての限界を超越した姿‥あまりの高次元の力に、器が耐えきれなかった」
「そっ‥巫山戯‥!!」
天馬の容態に驚く士門と繭良、そして有盛。
そんな中、艦内に大きな衝撃が走ります。
新たなる戦いと紅緒の復活
部隊は外へ
「おいおいおいおいおいおいおいっおいいっ!!!」
ろくろの頭上に、深淵の地の地表が浮かび上がります。
そこには大量の鬼遣らいたちが‥
『無悪は逝ったが深淵の地との融合は、もはや止められぬ。人は護るものが多いほど強くなれるといわれるが、ヒトを超えた其方に乗っては足かせにしか成らぬのではないか?』
ろくろの目の前に、異形と化した戦艦が襲いかかるのでした。
そして、舞台は再び変わり、千怒、神威、珠洲、そして紅緒へ。
千怒の”魂喚”が終わり、紅緒が目を覚まします。
「起きたか紅緒。目覚めたばかりで悪いが、事態は急を要する故‥」
「あ~~~っ!!すいませ~~~ん!!」
「申し訳ないのですが、僕は紅緒ではありません。僕はかつて─土御門島転覆を謀り、双星の陰陽師によって討たれた、焔魔堂紅緒の兄、石鏡悠斗です。」
こうして、まさかの復活を果たした悠斗で、今話は幕を閉じます。
まさかの復活で驚きです。
なぜ紅緒ではなく悠斗が復活したのかについては、考察の余地がないので、また次話以降で明かされることを願いましょう。
展開予想
天馬の死は確定?
天馬の死は確定なのか?
その答えはNoだと予想したいです(願望)
少なくとも、今回描かれた描写だけだとまだ死亡していないと考えられます。
VS巨大戦艦では勝神コーデリア、VS紅緒では御幣島すばる、VS加布羅では膳所雲雀、VS無悪(穢れの王)では鈩。
各戦いで1名ずつ12天将がなくなっているのが現状です。
また、他の12天将は遺言を残しているのに対し、天馬は何も残していない点も、復活の可能性はあります。
かと言って、無悪戦で最強と最凶が退場するのは綺麗な流れであることも事実。
ただ退場となればアッサリ過ぎる。あと死因が”器が持たなかった”は天馬の格下げが酷いようにも思います。
ということで何らかしらの復活を果たす気がするのですが‥
正直このまま退場でも、個人的には満足です。というのも、無悪戦は天馬のほぼ独壇場だったので。
活躍は十分でした。天馬の強さも分かりましたし。
復活案としては、千怒の術とかで時間を巻き戻して復活、とかでしょうか
個人的には、長時間を戻して、赤子として天馬を復活させて欲しかったりもします。
そして士門や繭良、有盛たちで育てる、なんて展開を期待したり‥
今後の展開
まず、紅緒の肉体で復活を果たした石鏡悠斗ですが、恐らく紅緒(悠斗)&ろくろ&千怒VS穢れの王が開戦するのではないでしょうか?
そして、有盛らも穢れの王を迎え撃つのか、巨大戦艦と対峙するのかは分かりませんが、残りの戦力も何かしらのカタチで参戦するのではないかと考えられます。
その後、紅緒が復活し、穢れの王をあと一歩の所まで追い詰め、封印する流れになるのではないかと考えております。
というのも、双星の陰陽師は巫女を生み出して完結するのではと予想しているからです。その後続編で巫女編をやって欲しかったりも‥
最後まで読んでくださった方、記事を見てくださった方に感謝を<(_ _)>
また次話でお会いしましょう。
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